「いやー、かねやま君ね、昔の人っちゅうのはすごいね。」
「突然、何の話ッスか」
「昔の人は、よくもまあこんな高い橋を...っちゅう話よ。」
「そうですよえ。この橋って昭和初期の橋でしょ。確かによくつくりましたよねぇ。」
「いやいや、そういうんじゃなくて、こんな高いところをだねぇ、みんなよく渡ってたもんだと思っとったんよ。」
「は?」
「何しろ高欄が低い。高さがひざくらいまでしかなかった。」
「なわけないでしょ。もうちょっとありますよ。」
「まあ実際はともかく、気持ちのうえではそのくらいに感じたっちゅうこっちゃ。そのうえ念入りに上側が丸く仕上げてあるじゃろ、うっかり寄りかかろうもんならそのままツルンじゃ。」
「そこまで心配しますか? あっそうか、家福さんって高所恐怖症じゃなかったでしたっけ。」
「とにかく、設計の段階では高欄の高さはこのくらいで十分と考えとったんじゃろね。でもね、とてもじゃないけど、橋の高欄に沿ってなんか歩けんよ、わしゃ。」
「そんなに怖がって...。観察のときはどうしてたんですか。」
「ん、橋の真ん中を堂々と渡ったぞ、1往復だけ。」
「それじゃ、一休さんの『このはしわたるべからず』みたいじゃないッスか。いまでこそ人道橋ですけど昔は車も通ってたんですから。車が来たらどーすんですか。」
「そう言えば、橋灯が見あたらんけど夜はどうしとったんかの? 真っ暗闇の中で渡れっちゅうんか? 想像しただけで恐いわっ。ぶるるっ。」
「もっと高い橋は他にいっぱいあるのに。このくらいで怖がってたらとても観察なんかできないんじゃないですか。」
「その恐怖心との闘いこそがアドベンチャーっちゅうことじゃないの?」
「あー、家福さんってあんまり橋にむいてないかもしれないッスね。」
[主レポート]へ戻る
|